いちごケーキが食べたいんだッ!ぼくはッ!

 トラットリアのテラス席、ジョルノとミスタは小さなテーブルを挟んで向かい合い、遅めの昼食を摂っている。
 食事をするならアジトの中でデリバリーをとるのが一番無駄がないとジョルノは思うのだが、ジョルノの相棒であり右腕でもあるミスタは、屋内にこもりっきりでは息が詰まってしまう性分らしい。
 昼食くらいは外で食べたいぜ、とぶつぶつ言いつつもデスクのそばに控えていてくれるミスタに、先日ついにジョルノは折れた。人気の多い昼時を外すことを条件に、外食の日を設けることにしたのだった。
 ぼくも一緒に行きます、とはジョルノは言わなかった。その日から、うきうきと出かけるミスタに当然のように同行した。わざわざ断りを入れるまでもないと思ったのだ。無駄を嫌うジョルノは、野暮な言動もまたよしとしないのである。
「なんだよ、なんだかんだ言って、おまえも外で食いてーんじゃあねーか、ジョルノ」
「別に、そういうわけじゃあない。きみが行くんなら、ぼくも一緒に行ったほうがいいでしょう」
 黙ってついてきた自分を見て呆れたように笑ったミスタに、ジョルノは涼しい顔でそう言い返した。
 ミスタは「あっそ。素直じゃねーなあ」と肩をすくめたが、自分にしてはなかなか素直に物を言ったほうだとジョルノは思っていた。外食ではなく、ほかでもないミスタとともにいることを目当てに出てきているのだと、嘘偽りなく本人に伝えたのだから。

 外食には、ミスタの気分転換と彼を見るジョルノの目の保養以外にもう一つ、主にミスタにとっての利点がある。ミスタがしぶしぶ自分のぶんの料理を分け与えてやることで、彼のスタンド、セックス・ピストルズの機嫌がすこぶるよくなるという点だ。シェフが仕上げたばかりの温かい料理は、ピストルズにとっても格別なものであるらしい。
 今もミスタは、勝手に弾倉から出てきたピストルズにせっつかれ、不服そうにジェノベーゼを小分けにしているところだった。
「優しいんですね、ミスタ」
「優しかねーよ。オレだって好きで世話焼いてるわけじゃあねーんだから……おいおめーら、一人につき五本だからな。ちゃんと取り分を守れよ」
 皿の端に寄せたジェノベーゼに群がるピストルズを構いつつ、ミスタは気だるげにジョルノに応える。
「言うなれば投資ってヤツだ、これは。満足させて、必要なときに存分に戦ってもらうためのな」
 ピストルズの士気はそのままミスタの戦闘能力に関わってくるので、「投資」という言葉には説得力があった。普段茶目っ気溢れる態度でいる反面、必要以上の情は持たない彼らしい発言といえる。
(……とはいえ、情を捨てきれてはいないんだよな。彼らとのやりとりを見ている限り)
 アクアパッツァを食べつつ、ジョルノはミスタを観察する。
 嬉しそうに食事を始めたピストルズを見届けて自分の食事を再開しようとしていたミスタは、フォークを持ち上げかけたまま早くもその動きを止めていた。
「テメーコノッ、寄コセッ!」
「ウ、ウエェ〜ン!」
「おいこら、No.5! すぐに泣くんじゃあねーっ!」
「No.3ガ悪インダゼ〜、ミスタ」
「No.5ガ食ベヨウトシテタノニ、No.3ガ反対側カラ食ベ始メタンダ!」
「なんだそりゃあ……たまたま同じパスタに食いついちまっただけじゃあねーか。No.3、おめーが自分が食うはずだったやつをNo.5に譲ってやりゃあ済む話だろ。間違えて食べちゃってごめんねっつってよ〜」
「違ウゼミスタ〜。No.3ハ、モウ自分ノ分ハ食イ終ワッテイルッ! 足リネーッテンデNo.5ノニモ手ヲ出シタンダ!」
「マア、確カニ五本ジャア足リネーヨナァ」
「ソ、ソーダゼ、足リナカッタンダヨォ! ダ、ダカラ、オレガ悪インジャアネーッ!」
「ウエエエエ〜ン! ヤダヨオミスタァ〜ッ! オレ、四本シカ食ッテナイヨォ〜! 縁起ガ悪イヨォ〜!」
「う、うぐぐ……」
 思わぬところで忌み嫌う数字が絡んできてしまい、ミスタは唇をわななかせた。
 顔を青ざめさせながらもパスタを新たに一本No.5に分け与え、No.3が六本食ったことに変わりはない、ずるいと抗議する他のピストルズにももう一本ずつ追加してやり、ほぼ全員に責められてしまい涙目になり始めているNo.3を「もっと欲しいんなら、No.5をいじめるんじゃあなくてオレに言え」と疲れた様子でたしなめる。
「……ずいぶん、割に合わない投資ですね」
「ああ? クソ、うるせーなあ」
 軽口のつもりでジョルノは言ったのだが、口調に表情が伴っていなかったらしい。げんなりした顔のミスタに、半ば本気で睨まれてしまった。
「すみません、怒らせるつもりは」
 片手を挙げて詫び、ジョルノは表情を和らげてみせた。食べ終えたアクアパッツァの皿を下げに来た店員に、コーヒーとドルチェを注文する。
 ふん、と鼻を鳴らしてジェノベーゼをかき込むミスタに向き直り、やはりいいな、とジョルノは思った。ミスタがこちらを見ていないのをいいことに、真正面から無遠慮に眺める。
 きりりと濃い上がり眉に、白目とのコントラストがさえざえと際立つ瞳。骨っぽい鼻筋。男性的なパーツが並ぶ中に、やわらかそうな厚い唇が不思議と馴染んでいる。
 ハイネックのセーターに包まれた上半身は、厚い布地越しでもわかるくらいに筋肉質で、それでいてしなやかに絞られている。常に露出しているぎゅっとくびれた腰と、ともすればもつれてしまいそうなくらい長い脚は、今はテーブルに阻まれていてよく見えない。
 じれったかった。でもじらされればじらされるだけ、食事を終えたミスタがすっと立ち上がったときの自分の感慨は深くなるだろうから悪くはないと思う。ミスタもそうだが、前向きさの度合いでいえばジョルノも常軌を逸しているところがある。
 ミスタの目には見えない部分にも、ジョルノは惹かれていた。
 ごくごくシンプルに物事を考え、からりと陽気にあけすけに生きる姿勢。
 息をするような自然さで銃口を標的に向け、一切の容赦やためらいなく引き金を引く、冷徹な判断力。
 大人げなくて自分勝手で、落ち着いた印象はほとんどないにも関わらず、根底に確かに存在している、母性といっても差し支えないような包容力。
 外見、内面ともに、ミスタを構成する全ての要素が、ジョルノを魅了してやまなかった。ディアボロとの死闘を乗り越え、新生パッショーネのボスと側近という間柄に落ち着いてからは、グイード・ミスタという男はジョルノの目にいっそう輝かしく映っていた。
 とはいえ、憧憬というには、この感情はあまりに不純だ。任務で大怪我を負ったミスタをゴールド・エクスペリエンスの能力で治療してやる際、痛みに悶絶するミスタが我を忘れてしがみついてくるたび、ジョルノがミスタに抱く感情は着実にその粘度を増して、反比例するように純度を下げていっている。
 これはまぎれもなく恋なのだと、本能的に悟って久しかった。
 自覚したそれは、それまでジョルノが漠然と思い描いていた「恋」とはまるで違うものだった。眩しいほどにきらきらと澄み渡り、甘酸っぱくて、ひたすらに美しい感情こそが恋なのだろうなと、他人事のように思っていた頃が懐かしい。
 恋とはどろどろしていて甘ったるく、ミルクを落としたように濁っていて、底の見えない感情だった。
 十五の初恋にしてそのことに気付けたジョルノは、初心だがやはり聡かった。
 そして初心なくせに、自分の気持ちをミスタに伝えることなく、それでいて思わせぶりに翻弄しながらめいっぱい愛してやりたい──なんていう、趣味の悪い野望を一丁前に胸に抱きつつ、今日も生きているのである。

「大盛りにしたのに、結局オレが食えたのって並以下の量だったんじゃあねーかなぁ」 
 ジェノベーゼをぺろりと平らげたミスタが、やるせない様子で呟いた。ジョルノは苦笑を洩らす。自由気ままを信条とする彼に、頼もしくもこんなにも手のかかるスタンドが発現したのはなんとも皮肉な話だ。かわいそうに、と心の中で同情してみるが、ミスタのその不遇なところすら、ジョルノにとってはれっきとしたチャームポイントだった。
「やっぱりミスタ、きみは優しいですよ」
「だーからー、んなことねーって。自分のためだ、自分のため……No.2、お昼寝するんならちゃんと弾倉に戻れ。No.6も」
「ほら、面倒見もいいですし。素敵なことじゃあないですか」
 ジョルノの言葉を受けたミスタは、ちょっと目を見張ったあと、大きな動作で椅子の背にもたれかかった。少し顎を上げて首を傾け、見下ろすようにしてジョルノを見やる。ジョルノが負けじとその瞳を見つめ返していると、やがてミスタの口角が少しだけ持ち上げられた。
「なんだよ、やたらおだててくれるじゃあねーか」
「事実を述べているだけですよ」
「下心でもあんの?」
「なんとも言えません。きみにとってどこからが下心になりえるのか、ぼくにはわからないから」
「それはよぉ〜、下心が『ある』って言ってるようなもんだぜ?」
 アハハ、と明朗に笑って、ミスタは言う。ジョルノは涼し気な表情を崩さないまま、テーブルの下でぎりりとスラックスのもものあたりを握った。
 野望を果たすべく日々積極的に動くジョルノに対し、ミスタはいつもこんな調子だ。
 手ごわい。まるで翻弄されてくれない。そのくせ、ジョルノの気持ちになんてとっくに気付いているかのような口ぶりでものを言う。
「……面倒見がいいなんて言うけどよー、オレは断然、自分が面倒見てもらいたいほうだ」
「そうなんですか」
「ああ。おまえは知らねーかもしれねーけど、こう見えて、年上のおねーさんにけっこうモテんだぜ、オレ。ほっとけないって」
 露骨な牽制に、ジョルノはかっと耳の後ろが熱くなるのを感じた。
 おそらく、誇張ではない。少なくともジョルノにそう思わせるだけのオーラが、ミスタにはある。
 しかし、自分にとって年上のミスタが、さらに年上の女性にどんなふうに媚びるのかは、想像もつかない。ジョルノは身を乗り出してミスタを凝視するが、ミスタは全てを煙に巻くような漆黒の瞳を細めて、愉快そうに含み笑うばかりである。どうあがいても年下のジョルノは、もどかしさをごまかすように、ひとつ咳払いした。
「……それは、意外だったな。なにか秘訣でもあるんですか? 年上の女性に可愛がってもらえるような。後学のために教えてくれませんか?」
「なに、ジョルノ。おめーも年上がタイプなの?」
「いえ、特にタイプとかでは。ただ、今後好きになった人が年上だった場合、きみの手法が役に立つかもしれない。だから教えてくれと言ってるんですよ」
 必死さを醸さないよう細心の注意を払いつつ、ジョルノは微笑んでみせる。年下の自分がミスタの知られざる一面を探る手段は、今のところこれしか考えつかない。
 目が合ったミスタの、楽しそうな表情といったらなかった。おもしろくなってきた、さて何を仕掛けてやろうかと思案しているのがありありと見て取れる。
 何かを隠すでも装うでもなく、ごく自然に優位に立って、ジョルノと対面していられるその余裕が憎い。自分はといえば、気を抜けば一気に首から上が染まってしまいそうになるのを、持てる全力で抑え込むのでせいいっぱいだというのに。
「……いいぜ。じゃあ、まさに今みたいなシチュエーションで使えるヤツを教えてやる。飯食い終わって、だらだらしゃべってるときにやるといい」
「いいですね。お願いします」
 椅子の背もたれから背中を離したミスタは、ちらりと腰に差したリボルバーを見た。テーブルの上にピストルズはいない。きちんと全員弾倉に戻って昼寝しているか確認したらしい。
 長く濃いまつげの縁取るその伏し目を拝んだだけでジョルノとしては「十分です、ありがとうございました」と礼を言いたいような気持ちだったが、ここで参ってしまうわけにはいかない。ごくりと唾を飲み下し、ミスタの次の言動を待つ。
 ミスタはテーブルに両肘を乗せ、片手で頬杖をつきつつジョルノを見ている。そしてにっこりと笑うと、彼は唐突に言った。
「なあ〜ジョルノ、オレ、イチゴケーキが食いてえなぁ〜」
「……えっ。何ですか、急に」
 聞き返したジョルノを、ミスタは頬杖をついたままじっと見ている。やがてその唇が尖ったかと思うと、彼はあからさまに肩を上下させ、大きくため息をついた。いかにも白けたような顔をしているが、こうなることが初めからわかっていたふうにも見える。
「あー、ダメだなー、年下相手じゃ」
「年下相手」の部分が強調されていたように感じたのは、ジョルノの気のせいではないだろう。馬鹿にされたような物言いをされてなお、ジョルノはぽかんとミスタの顔を見ていた。
「どーしたジョルノ、もう終わったぜ」
「ぼくには、きみがいつもどおりドルチェを要求してきたようにしか聞こえなかったけど……」
「そりゃきっと、おめーがオレより年下だからだな。感受性の問題だ」
「年上には、今のが効くんですか? 本当に?」
「ああ、抜群に効くね。かわいーって。おまえみたいなキレーな顔の男がやりゃあ、何も考えなくたって百発百中だろうよ」
 ジョルノは何も言わなかった。
 自分はこの期に及んで、ミスタにからかわれていたようだ。ミスタにとっての年下である限り、自分はずっとこうして、隠し持った矢のように向けた好意をのらりくらりとかわされ続けるのかもしれない。
 それはそれで構わない。
 どんなに絶望的に思えることでも、覚悟と希望をもって臨めば必ず活路は拓ける。名前も知らないギャングに出会ってから、自分はずっとそういう信念をもって生きてきたし、かつてヴェネツィアで、ほかでもないミスタが身をもってそのことを証明してくれた。
 ところで、今ミスタが教えてくれた秘訣とやら。実践させておいてなんだが、あれも、事実なのかどうか非常に怪しい。ただの出任せだった可能性もある。
 でも、もしかしたら、信用に値するかもしれないな。ミスタは本当にああやって、年上の女性からのわかりやすい愛情をほしいままにしてきたのかもしれない。凄腕の拳銃使いである彼が、百発百中なんて言葉を使うほどなんだから。
 ──そんなことを、黙って考えていた。
「……あれ、ジョルノ。もしかして、怒った?」
 いつまでも黙ったままのジョルノがさすがに気になったのか、ミスタが顔色を窺うようにこちらを覗き込んでくる。ジョルノは「いいえ」と首を振り、真っ直ぐにミスタを見た。
「むしろ、すがすがしい気分です。予測していたわけじゃあなかったんだけど、きみを喜ばせることができそうだ」
「あ?」
 ミスタが整った眉を跳ね上げる。
「どーゆーことだ……?」
 ジョルノは答えずに、椅子に深く座り直した。テーブルの上を空ける必要があるからだ。
 ミスタの背後から、シルバートレイを持った店員が軽やかに歩み寄ってくる。彼女はジョルノたちのテーブルの前で足を止め、「お待たせ致しました」と澄んだ声で告げた。ジョルノは行儀よく座ったまま会釈し、「ありがとうございます」と礼を言う。
「コーヒーをお二つと……イチゴのショートケーキは、どちらのお客様のご注文でしょうか?」
「ああ、それは、彼に」
「かしこまりました」
 コト、と音を立てて、自分の前に置かれたイチゴのショートケーキを、ミスタは目を見開いて見つめている。
 店員がコーヒーを並べ、シュガーポットとミルクをテーブルの真ん中に置き、一礼したのち来たときと同じように颯爽と去っていってから、ミスタはようやく顔を上げてジョルノを見た。
「おまえ、これ……」
「きみが食べたいかなと思って、頼んでおいたんです、さっき」
 ジョルノはカップを持ち、コーヒーを一口飲む。砂糖もミルクも入れていないそれはただひたすらに苦かったが、今カップを置くわけにはいかなかった。口の端が勝手に緩んでいくのを、ごまかせなくなってしまう。
 それでもそのうちミスタの反応を見たい気持ちが勝り、ジョルノはソーサーにカップを戻した。砂糖を取るついでを装って盗み見たミスタは、のろのろとフォークを手に取ったところだった。
 ゼラチンでつやつや光るイチゴを見つめていた瞳が、ゆっくりとジョルノに向けられる。底無しの穴のような漆黒の瞳が戸惑いがちに揺れて光を宿すのを、そのときジョルノは初めて見た。
「え、えーと、なんだ……これ、オレが食っていいのかよ」
「もちろん。きみのために頼んだんです」
「おっまえ……キザったらしいぜ〜、やることがよぉ〜」
「自分でもそう思います。でも、許してくださいよ。たまたま、こんな感じになってしまったんだから」
「あ、いや……うん」
 白々しく許しを乞うなとでも言われるかと思ったが、ミスタはどこかばつの悪そうな顔でもごもごと何やら口ごもりつつ、フォークの先でイチゴをつついている。
 が、そのうち大好物の誘惑に負けたらしい。吹っ切れたようにイチゴを突き刺し、ミスタはいつもの声音で、「ありがとな、ジョルノ。最高のドルチェだぜ」と言った。
 大粒のイチゴが一瞬でミスタの口の中に消えたのを見届けて、ジョルノはコーヒーに砂糖とミルクを溶かす。ポーカーフェイスを装う自分の表情は、すぐにミルクの乳白色にとろけて見えなくなった。
 満たされていた。この上なくいい気分だった。ミスタの貴重な表情が見られたのはもちろんのこと、意中の人を喜ばせることができたのが、純粋に嬉しかった。
 コーヒーを一口飲んだが、まだ少し苦い。ジョルノが小さく唸りつつ砂糖とミルクを追加していると、自分のコーヒーを飲みながら見ていたミスタがおもしろそうに口角を吊り上げた。
「ジョルノ、砂糖もミルクも入れすぎじゃあねーのか? 下手したら、このケーキより甘いかも」
 調子を取り戻したミスタの、意地の悪い笑顔が眩しい。手元のコーヒーがその瞳によく似た漆黒を保っているのが、無性に悔しかった。
 ジョルノはフォークを持ったミスタの右手に、自分の左手を重ねた。
 ミスタがぎょっとした顔でこちらを見る。ジョルノは構わず、ずいとミスタに顔を寄せた。
 早くも半分ほどになったケーキを見てから、視線を上げる。フォークを握った手に逃げられないよう左手にさりげなく力を込めながら、ジョルノはすくい上げるようにミスタを見上げ、甘えた声音で言った。
「ねえ、ミスタ。ぼくも、イチゴケーキが食べたいなあ。きみが食べてる、そのイチゴケーキが」
 ひとつ瞬いたミスタの顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。口をぱくぱくさせながら、「あ」とか「う」とかと意味のない単音を発するミスタに、ジョルノはあくまで可愛らしく、しかし有無は言わさず畳み掛ける。
「どう? ダメかなあ〜、ミスタ」
「ば、ばか……やめろよ、てめー……だったら、自分で──」
「新しいのがほしいわけじゃあないんだ。きみがおいしそうに食べてる、『そのケーキ』を一口もらいたいんだ。いいでしょう? ねえ、ミスタ」
 ミスタの体がぶるぶると震え出す。ジョルノは今度は隠すことなく、茹でだこのような顔色になったミスタの眼前で、にっこりと容赦なく、美しく微笑んでやった。
「そ……そ……」
「なんですか?」
「……そんなふうには、教えてねーだろッ!」
 悔しそうにわめき、ミスタはとうとう片手で顔を覆ってしまった。
 力の抜けた右手からフォークを奪い、ジョルノは勝手に食べかけのケーキを頂いた。
 そして、とろけるような甘酸っぱさに舌鼓を打ちつつ、納得していた。なるほど確かに、年上のきみには百発百中だな、と。