「ミスタ。今日は寄り道せずに帰ってきてくださいよ」
帽子の内側、ポケットの中、ブーツの隙間。
真新しい銃弾を箱から出しては衣服のあらゆる場所に仕込んでいくミスタに、ジョルノが定位置である執務室のデスクから声を投げる。
詰め込んだ銃弾を上から押して均し、残った銃弾を箱ごとボトムスの尻ポケットに突っ込みながら、ミスタは「えー」と思いきり下唇を突き出してむくれてみせた。
「なんで? 最近真面目にやってるだろ〜オレ。仕事の後の一杯ぐらい許してくれって」
三月も終盤になり、暖かい日が増えてきた。そのせいか、最近はひと仕事終えた後の一杯がやたらと染みる。ミスタは前にもジョルノにそう主張したのだが、「もう三十八だからかな、きみもずいぶんオッサンぽくなったもんですね」と辛辣な言葉で言い返され非常に傷ついたので、もう改めて同じことは言わない。
「しかもホレッ、もうすぐ月が変わるだろ。飲まずにやってられっかよ」
「そうだね、確かに四月が来る」
「あーっもうバカ、言うなって!」
ミスタは顔を歪めてジョルノを睨むが、デスクに肘をついた美丈夫は全く怯まない。真剣に四月を憂えるミスタを見やり、ちょっと口元を緩めてすらいる。昔は怯えるミスタを一生懸命奮い立たせようとしてくれていたのに、ひどい変わりようである。
人の不幸を笑うようになるなんて、三十五のオッサンともなるとずいぶん底意地が悪くなるもんだな。
心の中で毒づくミスタに、ジョルノは「話は最後まで聞いてよね」とため息混じりに言った。
「夜から一緒に飲みましょうって言ってるんです。いつものリストランテを予約してあるから」
「あー……」
すぐに納得し、ミスタは頷いた。
いつものリストランテというのは、まだミスタがパッショーネの下っ端だった頃、当時属していたブチャラティチームの面々と行きつけにしていた店である。頑なに行かない時期もあったのだが、かつてのチームメイトであったフーゴがパッショーネに戻ってきたある日を境に、少しずつ足を運ぶようになった。今はまた、行きつけといえる頻度で通っている。
奥の半個室の席が昔からパッショーネの指定席となっていることもあり、普段は予約などせず飛び込みで利用しているのだが、年に一度、わざわざ予約をとってディナーの席を設ける日がある。ジョルノ、ミスタ、フーゴ、ポルナレフ、そして都合が合えば、トリッシュも。ジョルノがボスであるパッショーネが「新生」であることを知っている、限られたメンバーだけで食事会をするのだ。
年によって日にちはまちまちだが、だいたいは三月の下旬だった。新生パッショーネ設立への一歩を踏み出す日となった四月六日当日にできれば一番よいのだが、四月に入るとたいてい仕事が立て込むし、何より、ミスタに言わせれば四月という時点でダメだった。
「そっか、もうそんな時期か……」
「ええ。皆には現地集合と伝えてあります。きみも、任務が終わったら直接リストランテに来てください」
「オーケーだ」
ミスタは執務室の窓際に向かった。陽の当たる場所に置かれたキャビネットには、ブチャラティチームのメンバーの遺品が、今でも花とともに飾られている。ミスタはそこから、壊れた腕時計を取った。ガラスが割れて文字盤はへこみ、歯車も歪んでしまっている。四時四十三分を指したままもう何年も止まっている長針と短針を数秒眺めると、ミスタはそっとそれをポケットに入れた。それから踵を返し、重たい木製のドアを開けながら、ジョルノを振り向いた。
「んじゃ、パパッと済ませてくるぜ」
「ええ。無茶はしないでくださいよ」
「わかってるって」
ドアが閉まる前に、背中でジョルノに返事をする。ひらりと振られたミスタの左手、昔より骨ばった手首の上で、十九歳の誕生日に贈られた時計が静かに時を刻み続けている。