思い出が欲しかった訳じゃない。

※タイトルは診断メーカーより

 

 たとえば、何かあるとすぐに隣に並んで愉しそうに肩を抱いてくる気安さが好きだ。
 たとえば、ムカついているときに「オレはおまえにムカついてるんだ」とはっきり言える裏表のなさが好きだ。
 たとえば、物を言うより雄弁かと思えばときになんの感情も悟らせない、夜の湖面のような瞳の底知れなさが好きだ。
 たとえば、真っ直ぐにこちらを見つめ、シンプルな言葉で愛を伝えてくれる屈託のなさが好きだ。

 ともに過ごしてきた時間の中で、ぼくはきみの好きなところを数え切れないくらい見つけた。
 人に愛されることも人を愛することも知らなかったぼくにこんなに幸福な時間の潰し方ができるようになるなんて、かつては思いもしなかった。
 取るに足らないような小さなことから、こんなに贅沢でいいんだろうかと不安になってしまうくらい大きなことまで。
 きみの好きなところを、これからももっとたくさん見つけていきたい。そして、きみが見つけては報告してくれるぼくの好きなところだって、たくさん聞きたい。全部伝えてくれているようで、そのいくつかはきみの胸の内にしまわれていることには薄々気付いている。ぼくにはいつも、それは楽しそうに洗いざらい吐かせようとするくせに、ずるい。不公平だ。きみだけ隠し事をしたまま、終わってしまうなんて。

 濡れたアスファルトにしゃがんだまま、辺りを見回した。手頃な小石はもうひとつも落ちていない。ポケットの中に何度手を突っ込んでみても何も入っていないし、きみの服や帽子の中に仕込まれていた予備の銃弾も、散らばっていた薬莢も、ひとつ残らず使ってしまった。視線の先、ばらばら降り続ける雨粒が青白い頬の上で跳ねている。水滴のついた長いまつげは、ぴくりとも動かない。
 大きな傷は完璧に塞いだ。血液だって作った。ぼくが駆けつけたとき、果たしてきみは生きていただろうか。確かめる余裕もなかった。これまでそうしてきたように、ぼくは死の縁に立たされたきみを脇目も振らず引き戻そうとするのでせいいっぱいだった。
「ミスタ」 
 きみと過ごしたこれまでの日々も、見つけることができたきみの好きなところも、とても輝かしいものだけど。ぼくは、きみとの思い出ばかりが欲しくて一緒に生きようと決めたんじゃあない。
 ぼくはいつだって、きみと前を向いていたい。きみが隣にいてはじめて見つかるもの、手に入るもの、知ることのできるものが、まだたくさんあるはずなんだ。
 血と雨に濡れたカシミヤの襟元を押し広げて、震える手を差し入れる。首筋にあてがった指先が冷たいのも、何も感じ取れないのも、きっと止みそうにない雨のせいだ。

 目を開けてくれ、ミスタ。
 こっちを見て、いつもみたいに「死ぬかと思ったぜ」「来るのが遅ぇんだよ」って憎まれ口のひとつでも叩いてくれ。きみのそういう勝手なところも、ぼくは好きなんだ。
 お願いだから、まだ言わせないでくれよ。好きだった、なんて。