何でも美味そうに食べる彼に、好きな食べ物を尋ねてみた。
「トリッパだな。あと白マメのスープ。ピッツァも好きだが、ネアポリスのやつがいい」
すらすらと答えた彼は、最後に思い出したように手元の皿に視線を落とし、「甘いのならイチゴケーキが一番だ」と笑ってみせた。皿に残されていた最後の一口が、小さなフォークに突き刺されて彼の口の中に消えた。
知らない間に涼しい顔で歳を重ねていたらしい彼に、誕生日を尋ねてみた。
「12月3日だよ。聞いたからには、次の誕生日には何かくれよ?」
吹き抜けた寒風に首をすくめつつ答えた彼は、こんな真冬でもコートの下はいつものヘソ出しセーターだ。いわく、オシャレは我慢だとかなんとか。冬生まれだろうと、取り立てて寒さに強いわけではないらしい。ぼくから彼に贈る初めての誕生日プレゼントの候補に、とりあえず腹巻きを加えておいた。
口数が多いわりにあまり自分の身の上を語らない彼に、家族構成をきいてみた。
「それは、一緒に暮らしてきたのが誰かってこと?」
銃のメンテナンスをしながら返されたのは新たな質問だったけど、どうやら彼の家庭事情も、多かれ少なかれワケありらしいと推測するには十分だった。だったら深くは聞かないほうがいいだろうと思って引こうとしたら、彼は目を丸くして「えっ、なんだよ、答えてねーのにほっぽって終わるなよ」と心外そうな声を上げ、あっさり教えてくれた。両親と年の離れた兄がいたが、十歳にもならない彼を残して、皆交通事故でいっぺんに逝ってしまったのだと。
「オレ、その日はちょうど風邪引いてて、親戚んとこに預けられててな。オレだけ留守番かよってムカついてたけど……ツイてたんだよ、その頃から」
シリンダーを手で回しながら、彼は言った。
軽い調子でそう言えるようになるまで、どれだけの時間が必要だったのだろう。そんなことを考え出すと胸が痛くなってきたので、ぼくは一言、「……すごい人だな、きみは」と嘘偽りない感想だけを口にして、それでなんとか終いにした。
「オレからもおめーに質問していい?」
読みかけの本から顔を上げたまま、ミスタが言う。ついさっき、好きな本は何なのかというぼくの問いかけに答えてくれたところだった。
問われてはじめて気付いた。このところぼくは、彼に質問ばかりしている。
何を問うてもきっちり答えてくれるから、つい不躾にあれこれ尋ねてしまった。根掘り葉掘りプライベートを探られるのは好きじゃあないけど、そんなことを今彼に伝えたところで「どの口が言うんだよ」と一蹴されて終わりだろう。ぼくにも彼からの質問に答える義務があるのは明らかだ。
好物、誕生日、家族構成。行ってみたい場所、よく聴く音楽、休日の過ごし方、好きな映画──それから、好きな本。
尋ねられれば、ぼくだってひと通り答えることはできる。もっともぼくは彼のように話し上手じゃあないから、聞いてよかったと彼に思わせてやれる自信はあまりないけれど。
「いいですよ。どうぞ」
デスクについたまま姿勢を正し、彼を促した。本をテーブルに伏せて、彼はじっとぼくを見る。黒い瞳がいたずらっぽく細められた。
「はいかいいえで答えられる質問か、そうじゃない質問。どっちがいい?」
「……じゃあ、はいかいいえで答えられるほうで」
「おめーってオレのこと好きなの?」
前置きなく発せられた言葉が彼からの質問であると気付くのに、数秒を要した。
開けた窓から吹き込んだ風が、頬を撫でる。枝葉が擦れる音も、小鳥のさえずりも、聞こえない。心臓が胸を内側から破りそうな勢いで拍を打つ音だけが、うるさく耳に響く。
「なあおい、はいかいいえだ。どっちかで答えてくれりゃあいいんだぜ〜、ジョルノ」
静かにうろたえるぼくに、優しさを装った彼が追い討ちをかけてくる。心底楽しそうにしているくせに、肉付きの薄い頬がじわじわと赤く染まっている。
からからになった喉になんとか唾液を送り込み、ぼくは口を開いた。たった一言、ミスタからの質問に答えるために。