※タイトルと冒頭の一文は診断メーカーより
告白する気概なんてないと高を括っていたから、告げられた瞬間逃げそびれたと思った。
それでも適当にごまかして執務室を出ようとしたら、肩が抜けるんじゃあないかと思うくらい強く手首をつかんで引かれ、あれよあれよという間に、でかいデスクの端っこと自分よりいくらか小柄な体に挟み込まれて身動きを奪われた。
ジョルノのやつがデスクに手をついて密着してくるせいで、角ばった天板の端が腰に食い込んで痛い。ちょうど服が途切れてる部分だ。
アザでも作るつもりか? オレの体に。いい度胸してんじゃあねーか。
そう言ってやろうとジョルノを睨みつけたのに、真正面からもっと強い視線をぶつけられて何も言えなくなった。ジョルノはオレを睨んではいない。眉を寄せて、怒ってるようにも泣きそうにも見えるゆがんだ瞳で、ただただ熱っぽくオレのことを見つめている。
「……誰にも知られず、想っているだけで満足だったんです。きみのこと」
胸に何かがつっかえているような声で、ジョルノが言う。
誰にも知られてないと思ってたのか。少なくとも、オレはおまえの気持ちはとっくに知っていた。おまえにしてみりゃオレになんて一番知られたくなかっただろうけど、なんせ、あまりにも想いの寄せ方がわかりやすかったもんで。
「でも、きみがいろんな女性に会いに行くのを見送っているうちに、このままでいいのかなと思うようになって」
ジョルノが何か思い切ったことを仕掛けてこようとしてるのを感じ取るたび、オレが突然会いに行くことになっていた女たち。
ディーナ、イデア、ヴィオレッタ。ソフィアにヴァネッサ──もっといたかな。
名前だけは都合よく使わせてもらったけど、オレは間違っても彼女らに自分から会いには行かない。見つかれば最後、彼女らは間違いなくオレを無傷では帰さない。みんな、過去にひと悶着もふた悶着もあった子たちばかりだから。繰り広げた修羅場はどれもこれも、「私だけを見てほしい」なんて言葉が発端だったっけ。
「それで、きみにぼくの気持ちを知ってもらいたくなった。……もう一度言います。ミスタ、きみが好きだ」
こそばゆくなるくらい真っ直ぐな言葉を受けて、口元に苦い笑みが浮かぶのを感じた。
おまえもそうなのか、ジョルノ。好きだって伝えさえすれば、オレが他のやつに会いに行かなくなると思ってるのか。
甘いよ、そんなカンタンな話じゃあねえ。おまえの気持ちを知ってたからこそ、オレはずっと逃げていたんだ。失敗しちまったけど、今だって、そうしようとしてたんだよ。恋人関係だからなんていう口実で、誰かに縛られるなんてごめんだから。たとえ縄を持ってるのがおまえだとしても。
ていうかおまえ、オレが毎回毎回急に女に会いに行くって言ってたのマジで信じてたのか。自分でもホント白々しいなって思ってたのに、あっさり鵜呑みにしちまって。
抜け目がなくて聡明で、カンが鋭くて。弱点なんてまるでないようなやつなのに、こと恋愛となるとてんでダメなんだなあ、ジョルノ。
「あー、ジョルノ、悪いけど──」
そう切り出した瞬間金色の長いまつげが震えたのを見て、思わず目を逸らす。やめてくれ、なんて顔するんだ。
「なんつーかな……オレ、ひとりの人間と付き合うのがイヤでさ。向いてねーんだと思う、誰かを一途に想い続けるとか、自分だけを見てほしいって期待に応えるとか、そういうのは。縛られてるみたいに思えちまって、窮屈なんだ。だから──悪いけど、おまえの気持ちには、応えてやれねー」
ろくでもないことを言ってる自覚はあるが、付き合っちまってからこれを明かすとそれこそろくなことにならないのは、身をもってよく知ってる。
逸らしていた視線をそっとジョルノに戻してみる。ジョルノは意外にも穏やかな顔をしていた。デスクに手をついたままさらに強くオレを押さえ込みつつ、ジョルノは「なるほど」と言った。
「それはきみ個人の都合であって、ぼくのことが嫌いなわけではないんですよね」
「あーうん、おめーのことは好きだぜ、フツーに」
「そう。そのことを、きみの口から聞けてよかった」
ジョルノの声音は暗くない。むしろ明るくすらある。
あれ? なんかこれ、変な流れじゃあねーか?
そりゃあこいつのこと傷付けたくはなかったけど、かといって、こんな希望に満ちた顔をさせるつもりもなかったんだが? オレ今、こいつのこと振ったよな?
万が一にも勘違いさせてたらいけないと思ってお断りの念押しをしようとしたオレを、ジョルノは遮った。「ミスタ」とたった一言、憎らしいくらい澄んだ声でオレの名前を呼んで。
「ぼくは、移り気なきみを引き留める術を知らない。だから小手先の技できみを縛るなんてきっと不可能だし、そもそも、きみが嫌がるなら縛る気もない」
こんな物理的に逃げ場を奪っておいて何を。
心の中でそうツッコんだのに気付いたか、ジョルノはようやくデスクの上から手を下ろし、オレの真正面に立った。体温の離れた胸や腹が妙にすうすうする。
「ぼくだけを見てなんて言うつもりはないんです。窮屈に思わせたならすみませんでした」
字面だけ見ればしおらしい言葉。でもジョルノは、さっきから一度としてオレから視線を外さない。振られてから明らかにその瞳がぎらぎらと強気な光を宿してるように見えるのは、多分オレの気のせいなんかじゃあないはずだ。
「こちらから頼まなくてもきみが振り向いてくれるような男に、ぼくはなります。だからミスタ、きみは何も気にせず、これまでどおり、気楽に生きていて」
それを聞いていじらしいなあなんて思えるほど、オレは呑気でも鈍感でもなかった。
死刑の執行猶予を言い渡されたようなもんだ。
いつか必ずおまえを落としてやるから、それまでせいぜい自由を謳歌していろ。──って、そういうことだろ、つまりは。
ああ、ジョルノ。お言葉に甘えて、とびきり気楽に、好きなように生きてやるぜ。おまえこそ、いつまで手ぐすね引いて待ってられるかな。言っとくけど、オレは自分からおまえに縛られてやったりなんてしねーからな。仮におまえのこと、めちゃくちゃ好きになったって。
「……いい度胸してんじゃあねーか」
今度こそそう言ったオレに、ジョルノはただ静かに微笑んだ。
全て自分の手のひらの上だとでも言いたげな涼しい顔をしていたって、やっぱりジョルノは恋愛が下手だ。変にこじらせて、挑発とか宣戦布告みたいな、どっか不穏な距離の詰め方をして。
でもそれって、オレのせいなのかもしれない。一生懸命、真っ向から距離を詰めようとしていたジョルノから、オレは逃げ続けてきた。未遂に終わったが、つい数分前だって、「きみが好きだ」なんていうこの上なくストレートな告白からでさえ逃げようとした。
他でもないオレが、ジョルノに捨てさせてしまったのかもしれない。穏やかで良心的な、純粋なひとの愛し方というやつを。
不思議と罪悪感はない。むしろちょっと、興奮した。つんと澄ました顔したこいつになりふり構わず狙われるのも、悪くはないかもなぁなんて。ま、なびいてなんてやらねーけど。
有言実行をモットーとするジョルノは、早くもオレを落としにかかろうとしているらしい。自分が嫌われているわけじゃあないとわかったからか、オレの右手をとり、大胆にも甲に短く口付けてくる。
敬愛だったか、手の甲へのキスは。よくやるぜ。ギャング組織のボスともあろうお人がよ。
挑発的な瞳を負けじと見つめ返しながら、オレは空いている左手で、まだくっきりとへこみの残る腰のあたりをそっと撫でた。